佐賀県立博物館|佐賀県立美術館

REPORT学芸員だより

働く人々の活き活きとした姿 〜資料紹介・池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》〜

2020年05月03日 展覧会

美術館「佐賀・日本画の眺望−池田幸太郎・野口健次郎・立石春美−」で紹介しているのは、佐賀ゆかりの日本画作品。
佐賀の美術といえば、洋画の印象が強いですが、それぞれ個性的な活躍を見せた日本画家も少なからず輩出しています。
本展は、そんな佐賀ゆかりの日本画家のうち、主に大正から昭和にかけて活躍した3名の画家、池田幸太郎、野口健次郎、立石春美の画業を、館蔵の名品を通して紹介しています。
残念ながら現在は休館中ですが、こちらで作品の魅力を順次紹介していきます。ぜひお楽しみください。

さて、前回紹介した池田幸太郎の《隅田川》に続き、学芸員オススメの池田幸太郎作品をもう一点紹介します。

池田幸太郎《朝市(京橋青物横丁)》.JPG

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》 1927(昭和2)年

(写真には全体的に沈んだ色で写っていますが、実物はもっと明るく美しい画面です...!)

この作品の舞台となった東京都中央区京橋は、現在の東京駅からすぐ近くの大都心のまち。
この地には京橋川という川が流れており、江戸期から昭和にかけて、この川の水運を利用して、野菜の市場街(青物市場)として栄えました。各地で収穫された野菜が東京湾を経て船でここに集められ、仲買人に売買されて江戸の八百屋や料理屋に卸され、人々の胃袋を満たしていたのです。
特に大根が多く取引されたため、「大根河岸市場」という通称で呼ばれていたそうです。
河岸には蔵や問屋が建ち並び、野菜を売り買いする人々が道路や橋を埋め尽くし、大いに賑わったそうです。

この作品にも、そんなまちの賑わいが描かれています。
さあ、作品を見ていきましょう。

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》部分.JPG

画面中央奥、京橋川に架かる橋の上に、野菜を抱えた商人たちが忙しそうに行き交います。
今から品物を卸しに行くところでしょうか、それとも買った野菜を持ち帰るところでしょうか?

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》部分2.JPG

橋の下には、野菜を載せた船を漕ぐ船頭たちが。
勇ましく船を漕ぐ男たちの汗まで見えてきそうです。

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》部分3.JPG

河岸に到着した船から野菜を下ろしていきます。キャベツやとうもろこしが、本日の主な品物のようですね。
あら、せっせと働く人々を尻目に、ひとりスイカを頬張る人の姿も...?!

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》部分4.JPG

おしゃれな着物に身を包み、こちらに笑顔を向ける女性たち。
野菜を運ぶ船に同乗する彼女たちは、仲買人の家族でしょうか...?

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》部分5.JPG

忙しく働く人々に交じって、牛たちの姿も。

池田幸太郎《朝市(京橋青物市場)》部分6.JPG

この人と荷押し車の数が、当時の賑わいがいかばかりだったかを物語っていますね。

現在、この京橋川は埋め立てられてしまい、往時の繁栄の面影はないようですが、「京橋大根河岸市場跡」を示す石碑が立ち、歴史を今に伝えています。
当時の東京の暮らしを支えた人びとの姿を、親しみを持って画布に描き取った池田幸太郎。
彼の作品は、美術作品としてのみならず、当時の東京に生きる人々の息吹を今に伝える「歴史・民俗資料」としても、今なお色褪せない魅力を放っています。
再開館した際は、ぜひ展示室で実物の作品を楽しんでいただければと思います!

次回は、野口健次郎、立石春美の作品も紹介していきます。お楽しみに!