佐賀県立博物館|佐賀県立美術館

REPORT学芸員だより

【海がいざなう物語】名品、池田学《誕生》と青木繁《朝日》がそろい踏み!

2020年10月08日 展覧会

博物館50周年特別展の関連企画として美術館で開催中のコレクション展、「海がいざなう物語」。
本展にて、当館コレクションのひとつ、池田学作の巨大な傑作《誕生》を、約2年ぶりに展示しています!

池田学《誕生》展示風景

ペンの繊細な線からスケールの大きな空間を創出する池田学の作品。その驚くべき緻密さは、一日ににぎりこぶし1つ分の面積しか描き進められないというほど。
約3年半をかけてアメリカで制作された縦3m×横4mの大作には、破局的な自然災害とそれを乗り越えてなお生き抜いていく人々や、自然と文明の相克と共生、生と死の循環など、池田のこれまでの画業の集大成ともいえる、多層的で壮大なテーマがあらわされています。
細部をつぶさに見ていくと、さらにさまざまな場面が散りばめられており、何度見ても見飽きることがありません。
展示室内でも、作品の前にじっと立ち止まって、集中して鑑賞されているお客様の姿がよく見られます。

さらに今回は、同作のスピンオフ作品となる小品9点を同時公開しています。

池田学《誕生》スピンオフ作品群展示風景
《誕生》の多層的な物語の中から、池田が特に重要な意味を持つ場面をクローズアップして描いた作品群です。当館では「三人展」(平成30年)でも展示をしましたが、今年、晴れて当館のコレクションの仲間入りをしました。今回はそのお披露目の展示でもあります。
ぜひ、本作《誕生》と見比べながら鑑賞してみてくださいね。

さらに、今回の「海がいざなう物語」では、明治に活躍した洋画家、青木繁の名品にして絶筆《朝日》も展示しています!

青木繁《朝日》展示風景

(写真が下手で申し訳ありません...実物は色彩やタッチがとてもとても美しいです!)
 ※作品所蔵:県立小城高等学校同窓会黄城会(当館寄託)

久留米出身の青木繁は、《海の幸》の成功などで一躍日本洋画壇の寵児となりましたが、その後は中央画壇での落選が続き、ついに夢破れて郷里に帰郷します。
その後、病を得た青木は、療養と絵画修行を兼ねて久留米・佐賀・小城・唐津などを放浪します。
本作は青木が最晩年に訪れた唐津で、玄海を臨んで描いた作品です。最盛期の躍動的なタッチは影を潜めますが、不思議と穏やかで柔らかな雰囲気が印象的な作品です。
「海」は、青木がその画業で一貫して追い求めたテーマであり、まさに彼にとっての創作の女神(ミューズ)のような存在でもありました。
陽の光に満たされた遥かな水平線を臨み、青木は何を感じ、何を願ったのでしょうか。
この作品を描いた翌年、青木は弱冠29際の若さで、博多で息を引き取ります。

海にまつわる画家たちや作品の様々なストーリーが交錯する、今回のコレクション展「海がいざなう物語」。
近代の名作と現代の名作がそろい踏みする、とても贅沢な空間となっております。
展覧会は11月3日(火曜日・祝日)まで。ぜひお越しください!

(文責:学芸課 秋山沙也子)