【折れてひろがるー屏風の世界ー】館蔵品の屏風が勢ぞろい!
現在、博物館3号展示室では、コレクション展「折れてひろがるー屏風の世界ー」を開催中です。
本展は博物館・美術館のコレクションの中から、近世から現代までの15点の屏風を展示しています。屏風に描かれたモティーフごとに分けて紹介し、テーマや時代を超えて、それぞれの屏風作品を比較しながら鑑賞することができます。
今回のミュージアム・ダイアリーでは、展示作品の中から担当学芸員の一押しの作品をご紹介します。
3号展示室、会場風景
遠くから見ても、近くで見ても楽しめる!《四季耕作図屏風》の暮らしの風景
《四季耕作図屏風》長谷川雪旦筆、6曲1双(上が右隻、下が左隻)
《四季耕作図屏風》は、江戸時代の画家、長谷川雪旦(1778-1843)の作品。左右の屏風に一年間の農耕作の様子が描かれ、穏やかな田園風景がやや俯瞰するような構図でひろがっています。このような構図と横長の画面は、広大な景色をパノラマのように身近に楽しむことができます。
手前に展開する画中の屋敷は、相模渡内村(さがみわたるうちむら、現在の神奈川県藤沢市)の名主福原高峰家の屋敷で、この屏風は、『相中留恩記略』(そうちゅうりゅうおんぎりゃく)の著者である福原高峰の依頼で描いたものと考えられています。
なお、息子の雪堤(せってい)が、天保9年(1838)に『相中留恩記略』の挿絵を描くために福原家に訪れています。同年、屏風の落款も61歳(天保9年、1838)作と書かれており、同じ時期に雪旦も福原家に同行し取材したと考えられます(『江戸の絵師 雪旦・雪堤ー知られざる世界ー』解説参考)。
雪旦は、江戸に生まれ、漢画を得意とした長谷川雪嶺(はせがわせつれい)の弟子となり、漢画や円山四条派の仏画など幅広く学んでいます。雪旦がどのような経緯で唐津藩の御用絵師になったかは不明ですが、1818年(文政元年、雪旦41歳)に小笠原長昌(おがさわらながまさ)が唐津へ転封となり、雪旦も唐津へ随行したことが知られています。
では、近寄って、よく見てみましょう~。
右隻の画面右側から、耕作はじめの鍬入れ行事や門松など、正月の風景が描写されます。左に行くに従い、春へと季節が移り変わっていきます。
門松・しめ縄
枝葉に隠れていますが、お供え物(御饌)があり、耕作初めの鍬入れ儀式をしている様子も
屋敷の中の人物まで、まるでセリフが出てきそうな、生き生きとした様子で描写されます。外の屋根には猫が喧嘩中?
川で種籾を4人がかりで浸して、手前で広げて干しています。左にはその籾のようなものを搗く女性。
左隻は、綿摘み・稲刈り・脱穀・年貢を納める様子から秋の収穫の様子が描かれています。
稲刈り、綿摘みの様子。
絵の中にも屏風が! 大津絵と扇紙が貼り交ぜられた枕屏風
長谷川雪旦の代表的な作品に、江戸時代の生活風俗を詳細に描写した《江戸名所図会》(えどめいしょずえ)があります。雪旦は《江戸名所図会》前編の挿絵を担当し、57歳のときに刊行されました。《江戸名所図会》は、これまでの伝統的に描かれてきた図様にとらわれず実景を写生し、当時の風景を的確に捉えた貴重な資料となっています。そのような雪旦の制作姿勢が《四季耕作図屏風》のような作品も生んだともいえるでしょう。なお、《江戸名所図会》は本展にも出品していますので、合わせてご覧いただけます。
会場では、この他にも魅力あふれる様々な屏風を展示しています。屏風が''折り成す''世界を是非、ゆっくりとご堪能ください。
(文責:当館学芸員 安東慶子)