佐賀県立博物館|佐賀県立美術館

REPORT学芸員だより

中越典子さん特別インタビューを実施しました!

2021年09月27日 

現在開催中の特別展「白馬、翔びたつ―黒田清輝と岡田三郎助―」でアンバサダーに就任していただいた女優・中越典子さんに特別インタビューを実施しました!佐賀での思い出、芸術への関心、そして本展覧会によせたご感想やメッセージなど読み応え満載です。展覧会をさらに楽しむため、ぜひお読みください!

中越典子さんProfile

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生年月日:1979年12月31日
出身地:佐賀県
出身高校:佐賀県立佐賀北高校(芸術コース)
趣味:映画鑑賞、陶芸
特技:絵画・シルバーアクセサリー作り
佐賀県出身の女優。NHK連続テレビ小説「こころ」主演を機に映画、舞台をはじめ多数出演。近年では「特捜9」シリーズなどに出演(テレビ朝日)。2016年には佐賀市プロモーション大使に就任するなど、多方面で活躍中。

展覧会アンバサダー・中越典子さん特別インタビュー

――まず最初に伺いたいのは、佐賀での思い出についてです。18歳まで佐賀で過ごしたとのことですが、当館についての思い出などがあれば教えてください。
 最初に訪れたのがいつの頃か、はっきりとは覚えていませんが、高校生のとき、県展(佐賀県美術展覧会)に自分の作品が出品され、佳作に選ばれたのは記憶に残っています。作品を搬入しているときに誇らしい気持ちになったことを覚えています。あの頃のほうが絵が身近でしたね。毎日絵筆を持って、佐賀北高校の美術室で作品制作に励んでいました。今でも油絵具の匂いを嗅ぐとキュンとして佐賀北高校の美術室で毎日作品制作に励んでいた日々や、県展に出品したときの思い出がよみがえりますね。

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――県展に出品した作品はどのような主題だったのでしょうか?
 そのときのテーマを正確に覚えているわけではないのですが、当時はとにかく派手に絵を描くということにハマっていましたね。「バックビート」という、ビートルズの初期メンバーで、グループ脱退後、画家の道に進んだスチュアート・サトクリフのスタイルに影響を受けて描いたことは覚えています。たしか、サングラスをかけた男性の顔面のような、黒と赤を基調にした作品だったと思います。

――佐賀北高校芸術コースに通われていたとのことですが、最初に絵画に関心を持ったきっかけや背景はあったのでしょうか。
 絵が好きな母、写実画を得意とした父のもとで育ったので、幼い頃から父と母の描いたスケッチブックを見ていました。きっかけといえば、私が喘息で学校を休みがちになった頃に、母と一緒にお花や野菜をスケッチするようになったことでしょうか。でも、もともとすごく身近に絵があったというのが大きいですね。

中越さんと美術・芸術について

――日ごろ取り組まれている演技と芸術の間に、何か共通点などは見出せるのでしょうか?
 そうですね。30代では感じられなかった黒田さんと岡田さんの絵画魂、生きる力をすごく感じられたと思います。やっぱり、舞台にしても、目の前にお客様がいて、その場で表現しようと、魂を込めて取り組まないといけないと改めて思いました。
 それがきっと、いつか人に伝わるという、一生懸命さ、試行錯誤する様、それが人々にエネルギーを与えてくれるんだなと感じました。役を演じるときも同様に、ひたむきに、役そのものと向き合うべきだなと。なかなか自分の技術が役に追いつかない時もありますが、それでも、演技や芸術が好きという気持ち、それに対する一生懸命さやひたむきさをもってこれからも演技に取り組めたらと思います。

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――次は、好きな画家や芸術家について伺いたいと思います。
 古臭いかもしれませんが、高校を卒業した多感な時期、なにか新しいものを取り入れたいという時期に出会った芸術家は今でも好きですね。たとえば、当時教科書で知ったフランシス・ベーコンは、以前名古屋で展覧会が開催されたときに東京から1人新幹線に乗って観に行ったくらい好きですね。やっぱりすごくかっこよくて、ちょっとひとくせある絵が好きで、その感性は変わらないのかもしれませんね。
 それと、グラフィティアーティストの元祖と呼ばれるジャン=ミシェル・バスキアがすっごく好きで、出会った頃に受けた衝撃から今も抜け出せられないまま、いまだに好きなアーティストです。たぶん、ストレートなところに憧れがあるのだと思います。もちろん、単純に描いている彼自身も好きですし、アンディ・ウォーホルなどの世代の革命児の1人として、落書きをアートに昇格させたこと、それまでのアートで使われてこなかったスプレーを作品に用いるなど、ポップなところが好きですね。
 あとは、フリーダ・カーロなんかも好きですね。色使いが好きです。

――どんなときに芸術に触れたくなりますか?
 率直に言えば、自分の感覚や知識を広めたいとき、でしょうか。1人の時間を、好きなものに触れて過ごすというのはぜいたくなことで、今はまだ子育てで余裕がなくてなかなか時間を割けないのですが、スマホで今どんな展覧会が開催されているのか常にチェックしては「行きたいなあ、行かなきゃなあ」と思いながら一歩踏み出せずにいます。何か新しいことや、刺激的なことをしている方、表現が面白い方なんかを知るのは面白いですね。
 また、今回のアンバサダー就任をきっかけとして、ゆっくりと心のゆとりを持てる時間、あるいは異空間に旅立てるような力が芸術にはあるのだと感じました。絵画であれば、画家の筆遣いによって周りの空気を感じ、まるでそこにいると錯覚するようなイメージでしょうか。
改めて、美術っていうのは、心を豊かにできるものだなと感じました。

本展覧会によせて

――それでは改めて、今回の展覧会をご覧になった感想をお聞かせください。
 まず、このような機会をいただけて、本当にありがたく思っています。
私が生まれ育った佐賀、そして佐賀県立美術館で、岡田先生が描いた絵を間近で見られたことは光栄です。やっぱり、年月を経て、今だからこそまた新たに感動できる作品が多々あって、その作品を見て心動いている自分に何かちょっとした成長を感じることもでき、自分自身を見つめなおす機会にもなりました。
 また、これほどまでに絵画一筋で生きてこられた岡田先生、最晩年は最後の一筆まで、お弟子さんに見守られながら描いていたという逸話を伺うと、何かに打ち込める、打ち込み続けられるというのは、改めてすごいなと思います。そして、何十年も前に描かれた作品から元気をもらえるって、改めて考えると不思議で、素敵なことですよね。

――油絵制作の経験をお持ちの中越さん、制作者の視点から、作品はどのように見えるのでしょうか?
 黒田・岡田両先生ともにいえることですが、ちょっとしたスケッチであったり、小さな葉書に描いた似顔絵なんかが本当に上手で、私のようにちょっと絵画をかじった程度の人間からすると、身近にあるスケッチブックやお手紙のような、そういうものを拝見することが結構楽しいですね。やっぱり、そのひとの生活を垣間見られるようなものに惹かれますね。
 若い頃の黒田先生が描いた傑作《舞妓》は本当にダイナミックで、すごく躍動感にあふれているなと感じます。描かれた空間が目の前で動き出すかのような、それでいて柔らかな光に包まれたような絵が本当にすばらしいと感じました。
また、岡田先生晩年の名作《あやめの衣》でいえば、筆跡も残さないような繊細な筆致で「一体どうやって描いたんだろう」と思わせるタッチ、そしてどこか日本画を感じさせる構図もまたすばらしいなと思います。
 展覧会第5章にて紹介されていた、晩年の黒田先生による《花野》を観ると、下絵の段階でもこれほど美しいのかと、ついつい見惚れてしまいますね。とっても淡い色合いで、だけど本当にリアルに表現されていて、大胆な赤色のラインが、ふくらはぎの丸みや肌の赤さをパッと表現されており、まさに血と肉が通っているなあと。黒田先生の師匠であるコラン先生の画風に影響を受けたものかもしれませんが、その画風で日本の風景を描いていて、そういった点が新鮮で面白かったですね。

――今回の展覧会では、7年前の特別展「岡田三郎助―エレガンス・オブ・ニッポン―」以来7年ぶりに音声ガイダンスを御担当いただきました。
 前回の展覧会で、はじめて音声ガイダンスを経験させていただきました。そのときは、ゆっくり、ゆっくりと読むことに意識を向けていました。今回の音声ガイダンスでは、レコーディングの直前に「少し早めに読んでもいいですか?」と御相談したうえで臨みました。というのも、あんまりかしこまって話すよりも、身近に感じられるような音声ガイダンスにしたいなと思って、自然体でお話することを意識しましたね。

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――なかなか選びきれないかもしれませんが、今回の展覧会でズバリ!お気に入りの作品があれば教えてください。
 本当にたくさんあって選びきれないのですが、岡田先生の《ムードンの夕暮れ》はお気に入りのひとつですね。暗い色調の作品なのですが、どうしても何か気になる作品です。あの暗い空と雲の間から垣間見える夕陽、太陽の残りわずかな光に焦点を当てたような小さな光が、私にはどうしてもあの画面の中に自分自身が入り込んだような気がしてしまいます。
 あとは、黒田先生がマリア=ビヨーを描いた《婦人像(厨房)》はブルーがすごくきれいでした。和田英作さんの《富士(河口湖)》に用いられた青色にも興味をそそられました。「なんでその色なんだろう」っていう、スッキリと晴れ渡る青ではない、きれいでやわらかな青色、あの青色が好きですね。
 そうそう、黒田先生による大作《昔語り》の下絵に描かれた舞妓さんのデッサンもとっても好きです。好きな作品はやっぱり数えきれないほどありますね(笑)

――最後に、展覧会にいらっしゃるお客様にメッセージをお願いします。
 コロナや自然災害がまだまだ落ち着かない中ではありますが、ぜひ佐賀県立美術館にお越しいただき、佐賀の岡田先生と、鹿児島の黒田先生、人となりも含めて刺激的な2人の色濃い人生、そして絵画が変化してゆく様は、鑑賞する側にも勇気、パワーをもらえると思います。その代表作である《舞妓》、《あやめの衣》はぜひ観ていただきたいです。この作品が横に並べられるのは、今回が日本初とお聞きしました。ぜひお見逃しなく、お越しいただければと思います。

――中越さん、本日はありがとうございました!