台湾・国立台湾美術館「描かれた真実―李梅樹120年芸術記念展」に、当館の所蔵作品を出品しています!
台湾・台中市の国立台湾美術館で開催中の展覧会「描かれた真実―李梅樹120年芸術記念展」(「畫筆下的真實--李梅樹120歲藝術紀念展」)に、当館が所蔵する岡田三郎助作品2点を貸し出し、現在、同館で展示されています。
李梅樹(1902~1983)は「台湾近代美術の巨匠」とも呼ばれる、20世紀の台湾を代表する洋画家の一人です。
なぜ、台湾の画家の回顧展に日本の洋画家である岡田三郎助の作品が?と思われるかもしれませんね。その理由は、岡田が若き李を教え導いた師その人だからなのです。
李が生まれ育った時代、台湾は日本の占領下にありました。1894(明治27)年の日清戦争の後に結ばれた下関条約によって、日本の領土の一部に組み込まれたのです。そのような緊迫した情勢の中、画家を志した李は、一念発起して日本の東京美術学校(現在の東京藝術大学)を受験し、見事合格します。そこで先生として李を受け入れたのが、岡田三郎助だったのです。
当時の岡田は、画壇の大家として活躍する傍ら、東京美術学校や私塾の本郷洋画研究所などで多くの画学生を指導していました。弟子たちの証言によると、あまり多くは語らないが、熱心な生徒には国籍や性別を問わず懇切丁寧に指導を行う先生だったそうです。そんな岡田の下で李はその画才を花開かせました。そして、岡田の影響を受けた温和な色彩と堅実な筆致で、台湾の市井に生きる女性や人物たちを描くようになります。彼の作品は台展(台湾美術展覧会)や日本の文展(文部省美術展覧会)で高い評価を受け、洋画家・李梅樹の名前は広く知られるようになりました。
今回、当館が出品した岡田の作品《ぬいとり》と《薔薇》は、李にとりわけ影響を与えたと考えられている作品です。
留学後は故郷の台湾へ戻り、画家としての活躍を続けた李ですが、1939(昭和14)年に岡田の訃報を聞くと、葬儀へ出席するため直ちに東京に駆けつけました。また、自身のスクラップブックには、岡田の代表作である《あやめの衣》(ポーラ美術館蔵)などの作品のコピーを大切に保管していました。これらのエピソードからは、国籍や年齢の違い、当時の社会情勢などの問題を超えて、二人が特別な絆で結ばれていたことが伺えます。
戦後、台湾画壇の重鎮となった李は、教師としても活躍し、多くの後進を育てました。さらに政治にも参画し、故郷の街や建物の再建に奔走します。このような実直かつエネルギッシュな生き方も、どこか岡田と相通じるところがあるように思えます。
今回は、貸し出した作品を安全に輸送するため、当館の学芸員が作品と一緒に台湾に渡り、設営・展示の様子を確認しました(学芸員のこのような仕事を『クーリエ』と呼びます)。
さらに、展示準備の最終日に催された記者会見にも、当館の学芸員が参加し、挨拶を行いました。
この展覧会が、台湾と日本の文化交流をさらに促進する機会となることを祈っています。
李梅樹をはじめとした多くの台湾の学生を育てた岡田三郎助。そして岡田の薫陶を受け、画家として才能を羽ばたかせた李梅樹。
両者の知られざる関係と交流を知ることができる、とても見ごたえのある展覧会です。
「描かれた真実―李梅樹120年芸術記念展」(「畫筆下的真實--李梅樹120歲藝術紀念展」)は、2023年3月12日(日)までの開催です。ぜひチェックしてみてくださいね。
展覧会公式Webサイト(国立台湾美術館のページにリンクします):https://event.culture.tw/NTMOFA/portal/Registration/C0103MAction?actId=20180
(文責:学芸課 秋山)